「月に5回以上の当直がつらい」「体力的にもう限界を感じている」——この声は診療科を問わず、多くの先生から聞かれます。当直は医師の業務の中でも身体的・精神的な負担が特に大きく、QOLに直結する問題です。しかも、自分から「当直を減らしてほしい」とは言い出しにくい雰囲気があるのも事実。
でも、安心してください。2024年4月に施行された医師の働き方改革によって、当直交渉の追い風が吹いています。この記事では、当直回数を減らすための交渉術を具体的なステップで解説し、制度を活用した賢い進め方を紹介します。

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医師の平均的な当直回数
調査によると、医師の1か月あたりの当直回数は平均3〜4回程度です。しかし、人手不足の病院や救急指定病院では月5〜8回以上の当直をこなしている先生も珍しくありません。特に若手医師に当直が集中する傾向があり、体調不良や燃え尽き症候群の原因になっています。
当直が若手に偏る背景には「若いから体力がある」「上の先生の方が忙しいから」といった暗黙の了解がありますが、これは持続可能な働き方とは言えません。
当直が医師に与える影響
睡眠不足による判断力の低下は、医療安全の観点からも見過ごせない問題です。海外の研究では、当直明けの集中力は飲酒時と同程度まで低下するという報告もあります。当直が多い医師ほどインシデントのリスクが上がることは、複数の調査で示されています。
また、当直の翌日もそのまま通常勤務を続ける「当直明け勤務」が常態化している病院はまだ多く、連続30時間以上の勤務になるケースもあります。これは患者の安全だけでなく、医師自身の健康にも深刻な影響を与えます。
当直回数と医師の離職・メンタルヘルスの関係
月6回以上の当直をしている医師は、バーンアウト(燃え尽き症候群)のリスクが顕著に高いとされています。実際に「当直がきつくて転職を考えた」という先生は非常に多く、当直の負担は離職の大きな原因の一つです。精神的な余裕がなくなると診療の質にも影響するため、当直回数の適正化は医療全体の質の問題でもあります。
交渉が実を結ぶまでには時間がかかります。それまでの間、当直室でわずかでも横になれる時間を確保するために、アイマスクや耳栓を自前で持ち込んでいる先生は少なくありません。根本的な解決にはなりませんが、荷物に忍ばせておくという方もいます。

働き方改革が当直交渉の追い風になる
時間外労働の上限規制(A水準:年960時間)
2024年4月から施行された医師の働き方改革により、原則として年間の時間外労働の上限はA水準の960時間と定められました。月平均にすると約80時間で、これを超えると法令違反になります。違反した医療機関には6か月以下の懲役または30万円以下の罰金が科される可能性があります。
当直の時間が時間外労働としてカウントされる場合(宿日直許可を取得していない場合)、当直回数が多ければ上限に到達しやすくなります。つまり、病院側としても当直の適正化に取り組まざるを得ない状況です。
宿日直許可の仕組みを理解する
労働基準監督署から「宿日直許可」を得た当直は、労働時間規制の対象外となります。宿日直許可が認められるのは、勤務の密度が低く、十分な休息が取れると認められる場合に限られます。
宿日直許可の回数制限は、同一の医師について宿直は週1回、日直は月1回以内が原則です。この基準を超える当直を求められている場合は、制度を根拠にした交渉が可能です。
追加的健康確保措置も味方にする
時間外労働が月100時間以上になると見込まれる医師には、面接指導が義務づけられています。また、連続勤務時間は28時間以内に制限され、勤務間インターバルとして9時間の確保が求められています(A水準は努力義務、B・C水準は義務)。「当直明けの勤務免除」を求める根拠としても活用できます。
- A水準:年間960時間(原則すべての医療機関)
- B・C水準:年間1,860時間(特定の医療機関に限定、2035年度末までに段階的に解消予定)
- 宿日直許可を得た当直は労働時間にカウントされない
- 許可なしの当直は時間外労働としてカウント
- 連続勤務28時間以内・勤務間インターバル9時間の確保
当直回数を減らす交渉の具体的な進め方
ステップ1:自分の労働時間を正確に把握する
まずは自分の月間・年間の労働時間を記録しましょう。当直の回数だけでなく、当直中の実働時間、当直明けの勤務状況も含めて整理します。「年間の時間外労働が〇時間に達している」という具体的なデータは、交渉の際に最も説得力のある根拠になります。
スマホの勤怠記録アプリや、Excelで簡単な記録表を作っておくだけでも十分です。3か月分のデータがあれば年間予測も立てられるので、交渉の前に準備しておきましょう。
アプリが続かないという方は、当直の日付と実働時間を書き込むだけの紙の手帳でも十分です。面談の場にそのまま持ち込めるので、「記録を取ってきた」という事実そのものが交渉の土台になります。
ステップ2:上司や診療科長に相談する
いきなり事務方に掛け合うのではなく、まずは直属の上司や診療科長に相談するのが適切な順序です。「体力的に厳しい」「家庭の事情がある」といった理由を正直に伝えましょう。感情的にならず、データを示しながら冷静に話すのがポイントです。
ステップ3:代替案を提示する
単に「減らしてほしい」と言うだけでは交渉は進みにくいです。以下のような代替案を準備しておくと、建設的な話し合いになります。
- 非常勤医師やスポット医師の活用を提案する
- 当直のシフト制を導入して負担を均等化する
- 当直回数の上限をチーム内で設定する
- 宿日直許可の取得を病院に提案する
- 当直明けの勤務免除制度の導入を提案する
ステップ4:制度を根拠にした交渉
上記のステップで解決しない場合は、医師の働き方改革における時間外労働の上限規制を根拠にした交渉が有効です。「現在の当直回数ではA水準の年960時間を超過する可能性がある」と伝えることで、病院側も対応せざるを得なくなります。法令違反のリスクを明確に示すことが、交渉を前に進めるカギです。

交渉が通りにくい場合の対処法
医療勤務環境改善支援センターに相談する
各都道府県に設置されている医療勤務環境改善支援センターでは、医師の労働環境に関する相談を受け付けています。第三者機関を通じたアドバイスは、病院との交渉を後押しする材料になります。相談は無料で、匿名でも可能なケースがほとんどです。
労働基準監督署への相談
A水準の年間960時間を超える時間外労働が常態化している場合は、労働基準監督署への相談も選択肢です。病院名を出さずに制度の確認をすることもできるので、まずは情報収集のつもりで問い合わせてみるのも一つの方法です。
当直なし・当直少なめの病院への転職
交渉が難航する場合は、当直なし・当直少なめの条件で転職するのも現実的な選択です。療養型病院、健診施設、産業医ポジションなどは当直が少ない、あるいは当直自体がない勤務形態が多く、当直の負担から解放されたい医師にとって有力な転職先候補です。転職エージェントに「当直なし」の条件を伝えれば、該当する求人を紹介してもらえます。
ただ、当直から離れた後にどんなキャリアを描くかは、求人票を眺めているだけでは見えてきません。臨床以外も含めた医師の進路を扱った書籍を読んでおくと、「当直を減らす」の先にある選択肢を落ち着いて比べられます。
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医師転職ドットコムの公式サイトはこちら当直回数の交渉でやってはいけないこと
一方的な拒否
交渉のプロセスを経ずに「もう当直はやりません」と宣言するのは避けましょう。チーム全体の運営に影響を与えるため、周囲の医師との関係も悪化しかねません。
同僚への負担転嫁
自分の当直を減らした結果、同僚の当直が増えるだけでは根本的な解決になりません。チーム全体の当直体制を見直す視点で交渉することが大切です。
感情的な訴え方
「もう限界です!」と感情的に訴えるだけでは、相手も対応しづらくなります。労働時間のデータ、法令の根拠、代替案をセットで提示する「ロジカルな交渉」を心がけましょう。
当直回数の削減交渉は、年収に影響する場合があります。当直手当は1回あたり2万〜5万円程度が一般的で、月に2回減らすと月4万〜10万円、年間で48万〜120万円程度の減収になる可能性があります。収入面への影響も含めて総合的に判断しましょう。
Q&Aコーナー
Q. 当直を完全にゼロにすることは可能ですか?
病院によっては「当直免除」の制度を設けているところもあります。特に育児中の医師や体調面に不安のある医師向けに配慮しているケースがあるので、人事担当に確認してみましょう。育児・介護休業法に基づき、深夜業の制限を申し出ることも法的に可能です。
Q. 当直回数を減らすと評価に影響しますか?
病院によりますが、適切な手順を踏んで交渉した場合は評価への悪影響は限定的です。働き方改革以降、「長時間働く=高評価」という風潮は見直されつつあります。むしろ、無理を続けて体調を崩すリスクの方が大きいです。
Q. 当直明けの勤務は法的に問題ないのですか?
宿日直許可を得ていない当直の後に通常勤務を続ける場合、連続勤務時間の上限(28時間)を超える可能性があり、働き方改革の規制に抵触するケースがあります。制度上、勤務間インターバルとして9時間の確保が求められています。
Q. 家庭の事情を理由にした当直免除は認められますか?
育児や介護など家庭の事情を理由にした当直免除は、病院の規程によっては認められるケースがあります。育児・介護休業法に基づき、深夜業の制限を申し出ることも法的に可能です。まずは人事担当に相談して、利用できる制度がないか確認してみましょう。
Q. 当直中の急患対応が多い場合はどうすればいいですか?
宿日直許可を取得していても実態として頻繁に急患対応が発生している場合は、本来の宿日直許可の基準を満たしていない可能性があります。労働基準監督署に相談することも一つの方法です。病院側に実態の調査と改善を求めることも検討しましょう。
Q. 当直の多さを理由に転職する場合、不利になりませんか?
転職市場では、働き方の改善を求める転職は一般的で、マイナスに見られることはほとんどありません。むしろ「自分のパフォーマンスを最大化できる環境を求めている」というポジティブな理由として伝えれば好印象です。転職エージェントに事情を伝えれば、適切な伝え方もアドバイスしてもらえます。
まとめ
当直回数を減らす交渉は、自分の労働時間を正確に把握し、働き方改革の制度を根拠にして建設的に進めるのが成功のカギです。代替案を準備して臨むことで、病院側も前向きに検討してくれる可能性が高まります。
交渉がうまくいかない場合は、当直なし・少なめの病院への転職も選択肢に入れて、自分の健康とキャリアの両方を守っていきましょう。無理を続けて倒れてしまったら元も子もありません。制度を味方につけて、持続可能な働き方を実現してください。

参考:厚生労働省「医師の働き方改革」 / ProSTAFFクラウド「医師の働き方改革の現状」 / 医療DXナビ「医師当直の実態と働き方改革」
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