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「医師に残業代なんてあるの?」と思っている先生もいるかもしれません。結論から言えば、雇用されている勤務医には残業代を請求する権利があります。にもかかわらず、医療業界では「残業代が出ない」「年俸制だから残業代は含まれている」といった誤解が根深く残っています。
この記事では、医師の残業代の計算方法と、働き方改革による時間外労働の規制について解説します。自分の残業代が適正に支払われているかを確認する参考にしてください。

残業代の基本的な計算方法
残業代の計算式
残業代の計算式はシンプルです。
残業代 = 1時間あたりの基礎賃金 × 割増率 × 残業時間
1時間あたりの基礎賃金の算出方法
月給制の場合、1時間あたりの基礎賃金は以下のように計算します。
月給 ÷ 月平均所定労働時間
ここで言う「月給」には、基本給のほか、役職手当や資格手当など固定的に支払われる手当が含まれます。ただし、通勤手当、家族手当、住宅手当など、個人的な事情に基づいて支払われる手当は除外されます。
割増率の種類
割増率は残業の種類によって異なります。
- 時間外労働(法定労働時間超え):25%以上
- 時間外労働(月60時間超え):50%以上
- 深夜労働(22時〜翌5時):25%以上
- 休日労働(法定休日):35%以上
時間外労働と深夜労働が重なる場合は、25%+25%=50%以上の割増となります。当直業務中に通常の労働を行っている場合、これが適用される可能性があります。
このあたりの用語は普段の診療では使わないため、ひととおり読んでも頭に残りにくいところです。労働基準法をかみ砕いて解説した一般向けの本を手元に置いておくと、就業規則を読むときの照らし合わせに使えます。

年俸制でも残業代は発生する
「年俸制だから残業代は年俸に含まれている」という説明を受けている先生もいるかもしれません。しかし、年俸制であっても、法定労働時間を超えた分の残業代は発生します。
ただし、「年俸のうち○○万円は固定残業代として○時間分を含む」と雇用契約書や就業規則に明記されている場合は、その時間分までは追加の残業代は発生しません。それを超えた時間については、別途支払い義務があります。
固定残業代(みなし残業)の制度があっても、次の条件を満たしていなければ無効とされる場合があります。
- 固定残業代の金額と対応する時間数が明示されていない
- 実際の残業時間が固定残業代に含まれる時間を超えている場合に差額を支払っていない
- 基本給と固定残業代が区分されていない
医師の働き方改革と残業規制
時間外労働の上限規制
働き方改革関連法により、医師にも時間外労働の上限規制が適用されています。原則として月45時間・年360時間が上限です。
ただし、医師には特例が設けられています。
- A水準(一般の医師):年960時間以下
- B水準・C水準(地域医療確保のための特例):年1,860時間以下
月間100時間を超えて勤務する医師に対しては、医療機関に追加的な健康確保措置(面接指導の実施、連続勤務時間の制限など)が義務付けられています。
月60時間超の割増率引き上げ
以前は中小企業(多くの医療機関を含む)では月60時間超の割増率が25%のままでしたが、現在はすべての企業・医療機関で50%以上の割増率が適用されています。

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「宿日直許可」の有無がカギ
当直(宿直・日直)の扱いは、労働基準監督署からの「宿日直許可」を取得しているかどうかによって大きく変わります。
- 宿日直許可あり:ほとんど労働する必要のない勤務(いわゆる「寝当直」)で、待機時間は労働時間に含まれない。ただし、実際に業務を行った時間は労働時間としてカウント
- 宿日直許可なし:当直時間すべてが労働時間として扱われ、時間外手当の対象
宿日直許可を取得していない病院で救急対応が頻繁に発生する場合、当直時間全体が時間外労働としてカウントされる可能性があります。
残業代が適正に支払われていない場合の対処法
もし自分の残業代が適正に支払われていないと感じたら、以下のステップで対処を検討してみてください。
- 自分の労働時間を記録する(出退勤時刻、実際の業務内容)
- 雇用契約書や就業規則を確認する(固定残業代の有無、割増率の記載)
- 病院の事務部門に相談する(まずは穏便に確認)
- 労働基準監督署に相談する(匿名での相談も可能)
- 弁護士に相談する(未払い残業代の請求を検討する場合)
この5つのうち、今日から始められるのは1つ目です。当直明けや呼び出しまで含めて記録するなら、1日の時間軸が縦に並ぶ24時間バーチカルの手帳が扱いやすく、あとから見返したときにも実働の形が一目でわかります。
未払い残業代の請求権には時効があり、記事執筆時点では3年(当面の経過措置)とされています。「昔のことだから」と放置せず、早めに対処することが重要です。
残業代の具体的な計算例
ケース1:月給100万円、月20時間の時間外労働
月平均所定労働時間を160時間とすると、1時間あたりの基礎賃金は100万円 / 160時間 = 6,250円。時間外の割増率25%を加えると、1時間あたりの残業代は6,250円 x 1.25 = 7,812円。月20時間なら月額156,240円の残業代が発生します。
ケース2:月給80万円、月70時間の時間外労働(うち10時間が60時間超)
基礎賃金は80万円 / 160時間 = 5,000円。60時間までは5,000円 x 1.25 = 6,250円で60時間分 = 375,000円。60時間超の10時間は5,000円 x 1.5 = 7,500円で10時間分 = 75,000円。合計で月額450,000円の残業代になります。
ケース3:深夜帯の当直勤務
当直で22時〜翌5時に実働した場合、時間外割増25%と深夜割増25%が重なるため、基礎賃金の50%増しの割増賃金が適用されます。基礎賃金が6,250円なら1時間あたり9,375円です。

医師の労働時間管理の実態
残業代を適正に受け取るためには、労働時間を正確に記録することが大前提です。しかし医療現場では、タイムカードの打刻後にカルテ記載を行ったり、自己研鑽と称して業務外とされる時間が発生したりと、実際の労働時間が正確に記録されていないケースが少なくありません。
働き方改革の一環として、医療機関には医師の勤務時間を客観的に把握する義務が課されています。ICカードによる入退館記録やPCのログイン・ログアウト記録なども、労働時間の証拠として有効です。もし自院の勤怠管理に不備があると感じたら、自分でも記録をつけておくことが身を守ることにつながります。
未払い残業代を請求する際の時効に注意
未払い残業代には時効があります。記事執筆時点では、時効期間は3年(当面の経過措置。将来的に5年に延長される見通し)です。つまり、3年以上前の未払い残業代は請求できなくなるため、「もしかして未払いかも」と思ったら早めに動くことが重要です。
請求にあたっては、勤務記録、給与明細、雇用契約書などの証拠が必要になります。これらの書類は日頃から保管しておくことをおすすめします。
給与明細は毎月届くぶん、気づくと行方不明になりがちです。年ごとに分けられるファイルにその場で綴じていく習慣にしておくと、3年分をさかのぼる必要が出たときにも困りません。
よくある質問(Q&A)
Q. 管理職(医長・部長)でも残業代はもらえる?
「管理監督者」に該当する場合は時間外手当の対象外となりますが、医師の場合、肩書が管理職でも実質的な経営権限がなければ管理監督者とは認められないケースが多いです。名ばかり管理職の場合は残業代の請求が可能です。
Q. 自己研鑽の時間は残業に含まれる?
病院の指示で行う研修や勉強会は労働時間に含まれます。一方で、自発的な自己研鑽(論文執筆、自主的な学習)は原則として労働時間に含まれません。ただし、暗黙の強制がある場合は労働時間と判断される可能性があります。
Q. 研修医の残業代はどうなる?
研修医も労働者であり、残業代を受け取る権利があります。研修医は管理監督者には該当しないため、時間外労働には割増賃金が支払われるべきです。研修医時代の未払い残業代を後から請求するケースも増えています。
Q. 当直明けの勤務は残業に含まれる?
当直明けにそのまま通常勤務を行う場合、当直が労働時間に該当するなら、通算して法定労働時間を超えた分は時間外労働として割増賃金の対象になります。働き方改革により、連続勤務時間の制限(28時間など)も設けられているため、当直明けの勤務体制も見直されつつあります。
まとめ|残業代の仕組みを知って、正当な対価を受け取ろう
勤務医であれば、法定労働時間を超えた分の残業代を受け取る権利があります。年俸制でも、管理職でも、条件次第では残業代の請求が可能です。働き方改革で時間外労働の上限規制が適用され、月60時間超の割増率も引き上げられています。まずは自分の雇用契約書と給与明細を確認し、適正に支払われているかどうかをチェックしてみてください。
もし未払い残業代があると感じたら、まずは自分で残業時間と基礎賃金から概算額を計算してみてください。その上で、弁護士や労働基準監督署に相談すれば、より正確な請求額と手続き方法を教えてもらえます。医療機関向けの労働問題に詳しい弁護士も増えてきているので、専門家への相談のハードルは下がっています。
働き方改革によって医師の労働環境は少しずつ改善されていますが、まだまだ課題が多いのが現実です。自分の権利を正しく理解し、適正な対価を受け取ることは、長く健康に医療を続けるための基盤でもあります。
参考:勝浦総合法律事務所 医師の残業時間と上限|ドクタービジョン 医師の残業代と法律|OBC360 医師の働き方改革と勤怠管理
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